どちらも不人気
本年11月8日には、4年ぶりの米大統領選挙が実施されます。
今回の選挙は、8年間続いた民主党が、再度大統領の席を確保するのか、または共和党が挽回できるにか大きな注目となりますが、米国では、ブッシュ親子が、「親子で大統領」になり、オバマ大統領が初の「黒人大統領」になるなど、歴史的に驚くべきことが続いています。
加えて今回は初の「女性大統領」が実現されるのかも大きな注目となりますが、更にヒラリー・クリントン氏が、大統領になれば、ビル・クリントン氏と「夫婦で大統領」を務めるという「快挙?」になります。
ただ、実際はあまり盛り上がっている感じはありません。TV討論会の高視聴率も、あくまでドナルド・トランプ氏が、「どういった暴言」を吐くのか、興味本位で見ている人が多いだけのようです。
これはどうも二人の不人気に原因があるようです。
民主党候補のクリント氏は、過去イラク戦争やリビア問題に賛成したとか、メールの私用、健康や金銭問題などの不安材料が残りますが、これはまだしも、どうもインテリ的で、高飛車な雰囲気が、男性や女性からも嫌われているようです。
一方共和党のトランプ氏は、税金逃れ問題、人種差別や女性蔑視など暴言が続き「問題外」だと思いますが、ただ、彼が標榜する「強い米国を取り戻す」というスローガンに同調する人も多いようです。
またトランプ支持と表だって口に出すと、他人から差別支持者と蔑視されると「隠れトランプ支持者」もいるようです。
現状は2回のTV討論会を経て、総じてヒラリー氏が7割ほどの世論からの支持を得ているようですが、マスコミによっても結果が異なっています。
また、共和党にも関わらずブッシュ父・元大統領が、クリントン支持を表明、一部のマスコミもクリトン支持を早々と打ち出すなど、奇妙な展開となっています。
これは逆説的に考えると、それだけ米世論が、「トランプ候補勝利の可能性がある」と捉えているようにも見えます。
今年は、英国のBrexitのように事前の予想が覆されるようなことが続いています。この時は、「Brexitになった場合、相場が暴落する」といった懸念が、安易なEU残留論につながったような気がします。となると今回も、トランプ氏が勝った場合、「相場暴落する」的な意味から、「そうはならない」という楽観的な見方をするのは危険かもしれません。
結果がどうなるかは、誰にも予想することはできません。
我々投資家としては、結果を無用に予想するより、サプライズや想定外となった場合に、相場がどう動き、どういう対処をするか、自分のポジションをどう管理するか事前に検討しておくことの方が、重要となりそうです。
ファースト・アクションとその後の展開
もし万が一、トランプ氏が勝利した場合、「株安・ドル売り」が一般的な見方です。
また特にトランプ氏が、メキシコ国境に城壁を作ると宣言していますから、メキシコ・ペソやメキシコ株、加えて新興国通貨・株式などは暴落的な動きとなるかもしれません。
一方クリントン氏が勝利なら「株高・ドル高」のリスク・オンの動きとなるとの見方が主流です。ただ、これはあくまで「ファースト・アクション」の動きであって、問題はやはり、勝利者が大統領になった場合のその後の中・長期的相場展開です。
その面を見るには、両者が現状掲げている政策に注目することになります。以下が個人的にまとめたものです。
当然賛否両論があると思いますが、一応市場のコンセンサスを見ながら、その方針によって、ドルの動きがどうなるか分析してみました。
「↑」がドル高、「↓」がドル安です。これを見る限り、クリントン候補が勝利した場合は、ドルには中立な感じです。
一方トランプ氏の場合、若干ドル売り優勢と見えますが、ただ注意は、トランプ氏が推奨する企業減税、米国投資法(HIA=ホーム・インベストメント・アクト)と言いますが、これが実施された場合、大きなドル買いに繋がる可能性があります。
これは2005年に1年限りの時限立法として実施された経緯がありますが、米企業が海外で稼ぐ利益金や配当金、余剰資金などを国内に還元した場合、大幅に減税するという政策です。
その場合米企業が、ドルを大量に米国に還流することになり易く、実際2005年の年後半ドルは大きく上昇しました。
つまり、トランプ氏が勝利した場合に、短期的にドルが売られても、この政策が決定されるなら、その後ドルが、大きく買い戻されるリスクがあることは覚えておいて頂きたいと思います。
米大統領選のアノマリー
それでは、過去の米大統領の時期の為替相場の動きを、ドルの相対的な価値をあらわすドル・インデックスの動きから見てみましょう。
赤い部分が共和党の大統領の時期、青い部分が民主党の大統領の時期です。
これを見ると、カーター、レーガンの時期はちょっと異なりますが、民主党の時期から共和党までドル買いが続き、その後半になってドルが急落しています。
これは丁度1985年のプラザ合意で、米国の双子の赤字を受けたドル安是正の政策協調に由来するので、例外でしょうが、その後を見る限り、共和党の時期はドル安、民主党の時期にはドル高になっていることが、よくわかると思います。
これはあくまでアノマリーなので、今回も同様となるかは分かりませんが、一応判断の基準とするなら中期的に、クリントン氏が勝利すれば、その後の趨勢はドル高が続き、トランプ氏が勝てば、ドル安のトレンドということになります。
シナリオと対策
申し上げた通り、予想しても仕方がないので、結果がどうなるかで、相場がどう動く可能性があるか、シミュレーションしてみましょう。
ただ、お断りしておきますが、相場ですから米大統領選の結果だけではなく、中央銀行の金融政策や経済の今後の行方、Brexitや地政学などのリスクで、相場が変化しますから一概には言えません。
あくまでここでは、大統領選の影響面だけからお話しします。
まずは「ファースト・アクション」は、素直に考えて、トランプ氏が勝利した場合、「株安・ドル売り」加えて、瞬間的に暴落気味の展開になり、クリントン氏が勝利なら「株高・ドル高」のリスク・オンの動きとなると思います。
問題はその後ですが、11月8日以降結果が判明しても、実際の就任は、来年の1月ですし、また大統領教書演説などが行われるまで、しっかりとした新大統領の政策が見えてきません。
つまり、それまでは市場は、どちらが勝利しても疑心暗鬼となり、それ以前の動きの巻き戻し的展開になり易いと思います。となると大統領選の結果での動きは、ある意味短期的に、逆張り的な戦略で立ち向かうのが面白そうです。
現状ではあまり長期の視点を示すことはできませんが、大領領教書演説後の相場展開としては、前述の両氏の政策面で見た限りでは、クリントン氏ならドルは揉み合い気味の展開から脱しない方向で見ておきたいと思います。
一方トランプ氏が勝利した場合、特に前述の米国投資法の強い成立を訴えるなら、ドルの巻き戻しが強まる局面がありそうです。また強い米国を標榜した場合に、株価が強い上昇を示現する可能性もあります。
その後の長期的視点に関しては、前述のアノマリーのように、民主党ならドル高、共和党ならドル安になるのかもしれませんが、それはあくまで、来年以降の展開を確認してから判断するしかないでしょうね。
気をつけたい注意点
最近では、Brexitなどサプライズが多く、相場の変動が激しくなっているような気がします。下に掲載した表は、直近にあった「相場のクラッシュ」の一覧表です。
これは、どうも欧米の金融機関が取引を減少させる中、超高速取引の乱無で、相場の変動リスクが高まっていることが、大きな要因のようです。
米国では、ボルカー・ルールやMMFの新規制などから金融機関やヘッジファンドがリスクを取りづらくなっていること。
欧州の金融機関も信用不安やBIS規制で、資産やポジションを膨らますことが難しくなっていることなどから、リスクの「受け手」としての銀行の役割が、為替市場において機能しなくなっている可能性があります。
一方の超高速取引では、AIを利用して、指標やニュースのヘッド・ラインで自動的に大口の売買取引が発動するプログラムが、市場を席巻していることで、動き始めると相場が一方向に大きく傾き易くなっていることが考えられます。
つまり、米大統領選でも、大方がクリントン優勢と見ているだけに、サプライズ的に、トランプ氏が勝利した場合、相場が想定以上に、大きくクラッシュする可能性があるかもしれません。
相場も選挙も絶対はありません。くれぐれも皆さんには、事前に起こりうるリスクに備えた対策を準備して頂きたいと思います。
テクニカル面
☆ドル円
直近のドル円相場は、日足ベースで、99.02の安値から99.54、100.09と下値を維持して、サポートを形成。
更に上値は今年ずっと抑えていたレジスタンスや雲を上抜け、トレンドの転換が指摘されています。
ただ米大統領選を睨んでイベント・リスクからは上値を追うのは厳しい感じです。
買うには、あくまで再度下値のサポートを維持できるのか、再確認する必要がありそうです。
下値のサポートは10月17日の100.16レベルから11月9日までに100.40まで上昇してきますので、これが維持されると強いので、下げないリスクを感じるなら買いも一考ですが、現状の安値ゾーンとなる99.02-100.09には、月足の雲の上限も重なっており、もし割り込むなら、大きく調整が深まる可能性があります。その場合雲の下限となる92.59、フィボナッチ・レリトレースメント(75.31-125.86)の68.2%戻しとなる94.62、月足のH&Sからは下限の92.45-60、90.85-90などが位置しており、こういったレベルまで調整する可能性が残っているのは注意です。でもそこは、積極的に買いを狙いたいと思います。
一方上値は、日足のそれ以前安値。月足のH&Sの上限となる105円ミドルが抑えると弱い状況が続き、超えても週足のレジスタンスが位置する107円前後が抑えられると上値追いも厳しいです。
あくまで107.49の戻り高値を超えて、更なる上昇期待となりますが、その場合も直近のフィボナッチ・リトレースメント(99.09-125.86)からは38.2%の109.27が良い位置で、緩やかなレジスタンス・ゾーンからも110円を当面超える動きは難しいでしょう。こういった位置への反発は、絶好の利食い場となりそうです。
☆ユーロドル
ユーロドル相場は、Brexit(英国のEU離脱)にも関わらず、不思議な揉み合いが続いています。ただ直近では、日足のサポート割れて軟調気味な展開ですが、月足のオシレターからは、更に突っ込んで売るのは厳しい状況です。
また材料面からは、ユーロ相場には多くの悪材料があるにも関わらず、底堅い状況が続いているのも注意です。
以下が直近のユーロを巡る悪い材料。
よく相場の世界では、「悪材料で、下がらない相場は強い?!」と言われますが、テクニカル面でも、ユーロを支える3つの重要なポイントがあります。
一つ目は、エリオット波動からは、現在の相場の位置が、第5波の安値の可能性があります。以下がその月足のチャートですが、青い部分は高値からのABC調整で、その後赤い矢印の通り、現状が5波の安値となっている可能性が指摘されます。
二つ目は、相場の買われ過ぎ、売られ過ぎを示すオシレーター指標が、既に買いサインを示しています。(チャート下段部分)
三つ目は、案外重要ですが、ユーロドルは取引スタートした後、2000年10月に最安値となる0.8225まで売り込まれましたが、これを起点に三角保合いを形成した後、保合いを上放れて、大きく反発しました(Aの部分)。
現在も2015年3月に1.0457の安値をつけた後、似たような保合いを形成しています(Bの部分)。
だからと言って、また上昇?とは言えませんが、前回の保合いが、安値から20カ月で反転となっています。これを今回に当てはめると、今年の11月が安値からの20カ月目に相当します。
もし11月にこの月足の三角保合いのブレイクが発生した場合、大きなトレンドが発生する可能性があるので注意となります。
現状このレジスタンスは、1.1561から12月までに1.1539まで下げてきます。
一方サポートは1.0596から1.0611まで上がってきますが、こういった位置をブレイクする動きが出た場合、特に11月には米大統領選挙もあるので、相場の動きに逆らっては危険かもしれません。
その場合の上値の目途は、月足のネック・ラインとフィボナッチ・リトレースメント50%に相当する1.1228(上のチャートのピンクの部分)が、良いターゲットとなります。
ただ、逆に割り込んだ場合は、この下落チャンネルの下限で、月足の横足と合致する0.96まで落ちる可能性があります(上のチャートの黒い横足部分)。ともかく11-12月に、保合いをブレイクするなら注意してください。
一応前述の三つの理由から、ユーロドル相場は、上がる方向で考えていますが、相場に絶対はないので、一番良い方法は、買いたいなら上抜けを確認してから、参入するのが安全かもしれません。
または、しっかりとストップを入れて対応して、逆に割れるなら度転・倍返しの戦略も一考となりそうです。
(執筆時:2016年10月18日)